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山形地方裁判所 平成7年(ワ)137号 判決 1996年3月28日

主文

一  被告は、原告に対し、一三三万七二〇〇円及びこれに対する平成六年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、一九八万八四〇〇円及び内金一〇五万三二〇〇円に対する平成三年一〇月二五日から、内金九三万五二〇〇円に対する平成四年三月二四日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告との間でワラント取引をした原告が、被告従業員の違法な勧誘行為により損害を被ったとして、被告に対し、民法七一五条、同法四一五条に基づき損害の賠償を求めたものである。

一  争いのない事実

1  原告は、昭和一一年生まれであり、三幸ビルサービス株式会社の代表取締役である。

被告は、有価証券売買等の証券業を営む株式会社であり、南城勇人(以下「南城」という。)は、被告山形支店に所属していた営業担当社員で、原告との取引を担当する外務員であった。

2  原告は、南城の勧誘で、被告山形支店から、ユアサ商事株式会社USドル建てワラント(以下「本件ワラント」という。)を次のとおり買い付けた。

(一) 平成三年一〇月二五日 一〇ワラント(一〇単位) 代金額一〇五万三二〇〇円(以下「本件ワラント一〇単位」という。)

(二) 平成四年三月二四日 二〇ワラント(二〇単位) 代金額五三万五二〇〇円(以下「本件ワラント二〇単位」という。)

3  本件ワラントの権利行使価格は一〇五〇円三〇銭、権利行使期限は平成六年九月二日であったが、原告が本件ワラントを購入してから権利行使期限までの間、本件ワラントは権利行使することにより利益が上がる水準を超えることがなかったので、原告は、本件ワラントについて権利行使することができず、右権利行使期限の経過により、本件ワラントは権利消滅し、無価値となった。

二  争点

被告の責任の存否が主たる争点である。

1  争点に対する原告の主張

(一) 適合性原則違反

証券会社は、投資者に対する投資勧誘に際しては、投資者の意向、投資経験及び資力等に最も適した投資が投資が行われるよう十分配慮しなければならず、特に、証券投資に関する知識、経験が不十分な投資者及び資力の乏しい投資者に対する投資勧誘については、より一層慎重でなければならない(適合性の原則。昭和四九年一二月二日大蔵省証券局長通達、証券取引法五四条一項一号)。特に外貨建てワラント取引についての適合性が肯定されるためには、その複雑な取引の仕組みや強度の投機性等を十分に理解した上で、的確に情報を入手し、複雑な値動きの分析・予測を自らなしうるだけの知識、経験、能力を有し、かつ、投機的取引への指向が明確で、それに見合う資金力を有していることが必要である。

南城は、強度の投機性と複雑な仕組みを持つ外貨建てワラントである本件ワラントを、投資経験・知識共に乏しく、数百万円単位の投資資力しかない原告に勧めており、適合性の原則に違反している。

(二) 説明義務違反

証券会社が、高度の専門知識と経験を必要とし、リスクの高い取引を、その種の取引に精通していない顧客に勧誘するに際しては、機械的な取引内容の開示にとどまらず、顧客が自らの責任において取引を行うことを可能にする程度の説明をなすべき義務がある(証券取引法五〇条一項六号、一五七条二号、証券会社の健全性の準則等に関する省令二条一号等)。その義務は、投資家の投資経験・知識が乏しいほど、当該商品がハイリスクであるほど高度になるというべきである。

南城は、ワラントの特質についてほとんど説明せず、「必ずもうかりますから。株よりもうかりますから、私に任せてください」などと申し向けて、原告に本件ワラントの購入を決意させており、説明義務に違反している。

(三) 断定的判断の提供

証券取引法五〇条一項一号は、価格が騰貴し、又は下落することの断定的判断を提供することを禁止している。

南城は、「必ずもうかる」などと述べて取引を勧誘しており、また、平成四年に買い増しを勧めた時も「(値下がりは)一時的なことですよ。安いときに買い増しして単価を下げましょう。必ずもうかるように私が気配を見て売ってあげますから」などと述べており、右条項に反している。

(四) 情報不提供による損害拡大の放置

投資家が証券会社と継続的な取引を行う場合、投資家は、証券会社に対し、価格の推移や売り時の判断等についての適切な情報提供を期待しており、証券会社は、信義則上そのような情報を提供すべき義務を負っているというべきである。特に、ワラントの場合、一般投資家の能力では、独自に価格情報を入手したり、値動きの分析・検討をしたりすることが困難であり、購入した証券会社に買い取ってもらうしか換価の方法がないから、このことはより強く当てはまる。

南城は、ワラントについてほとんど理解しないままこれを購入していた原告に対し、その後必要な情報提供をせず、原告は、適時の処分により損失の拡大を食い止めることができなかった。さらに、南城は、原告が本件ワラントの売却を考えたときにも「今は売り時ではない」と不適切な情報を提供した。

(五) 損害

原告は、本件ワラント代金全額に相当する一五八万八四〇〇円の損害を被った。遅延損害金は、不法行為時である各ワラント売買日から起算されるべきである。

また、原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し、その費用及び報酬として四〇万円の支払を約した。

2  争点に対する被告の主張

(一) 適合性原則違反について

原告主張の通達は、監督官庁の業者に対する行政目的を実現するためのものであり、業者と顧客との私法関係の内容を律する法規範になるものではない。また、証券取引法の規定は、本件取引の後に設けられたものである。

さらに、原告が、企業経営者として十分な経営経験・知識を有していること、日本経済新聞を講読していること、被告山形支店との株式取引一二銘柄の内、自ら三銘柄を指定して買付を行っているほか、株価等について自らの意見を述べることも多かったこと、株式の見切り売りをするなど、高度な投資判断力がないとできない決断をしていること、最初にアラビア石油のワラントを紹介されたとき、リスクがあるからという理由で断っていること、本件ワラントのいわゆるナンピン買いについてもその意味を理解し、自らの判断で行ったこと等からすれば、原告は、ワラント取引を行うについて、十分な投資の経験・知識を有しているというべきである。

(二) 説明義務違反について

(1) 証券会社は法的義務として説明義務を負うものではなく、また、条理上も一義的に説明義務が生じるものではない。さらに、原告が指摘する証券取引法等の規定は、証券会社に対し、投資家の任意かつ自由な投資判断を妨げるような行為をしてはならないという不作為を求めているに過ぎず、ここから積極的な説明義務を導くことはできない。

(2) 南城は、次のとおり、原告に対し、十分な説明をしている。

南城は、平成三年九月中旬ころ、会社四季報、株価チャート、ワラント説明書を持参して原告を訪れ、ワラントが新株引受権であり、一定の期間内に一定の価格で一定の株式の新株を買い付けることができる権利であって、その権利の売買であること、ワラントの価格は株価に連動して動くが、株が一割上がれば約三割上がり、一割下がれば三割下がるハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期限を過ぎると無価値になること、外貨建てワラントは為替の変動リスクがあることなど、ワラント取引説明書を原告に手渡した上、これに基づき約一時間かけて説明し、アラビア石油のドル建てワラントを紹介したが、原告は、リスクのある商品だと言って断った。

南城は、同月二〇日、電話で石原産業のドル建てワラントを紹介し、その際、約三〇分をかけてワラントの商品性、石原産業の株価の見通し、相場環境等について説明したところ、原告は、右ワラントを注文し、一〇ワラント(一〇三万四七一二円)の買付の約定が成立した。

南城は、同年一〇月一日、原告を訪ね、ワラント取引説明書に基づきワラントの商品性について、新株引受権であること、ハイリスク・ハイリターンであること、権利行使期限や為替リスクがあることなどの説明をし、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」に原告の署名押印をもらった。

第三  争点に対する判断

一  本件においては次の事実が認められる。

1  原告は、木材会社の社員を経て、昭和五四年六月一日、ビルの清掃及び管理を業務とする三幸ビルサービスを設立し、その代表取締役をしている(原告)。三幸ビルサービスの従業員は五、六〇名である(原告)。

原告の証券取引の経験は、昭和五七年に被告から国債株式ファンドを買い付けたことに始まり、このころ、原告の収入は、年間約六〇〇万円(税込み)であった(乙二、原告)。その後、平成二年一〇月ころに南城が飛び込みで原告方に来るまで被告との取引はなかった(争いがない。)。

2  平成二年一〇月ころ、南城は、飛び込み外交の最中に原告が経営する三幸ビルサービスに入って原告と話をしたことがきっかけで、以後、原告の取引を担当するようになった(証人南城)。

原告がその後最初に購入したのは、新日軽の株式二九一万円であり、平成二年一二月六日のことであった(乙二、三)。原告は、特に株式に興味があるわけではなかったが、南城の勧めに応じてこれを購入することとした(原告)(なお、この点につき、南城は、新日軽の取引は、原告自身の判断によるものであり、原告自身株式に興味があると言っていたと述べているが、原告が被告と最初に取引をしたのは昭和五七年の国債株式ファンドであり、その償還による振込金が返還されたのは、昭和六二年七月のことであって(乙三)、以後、南城の飛び込みがあるまでの約三年間は、全く証券取引をしていないこと、南城が原告と接触を始めてから最初の取引まで約二か月あること、原告が当初なかなか購入しなかった理由として、単に金がなかっただけであるが、南城に対してそうも言えなかったと述べていること(原告)も不合理な説明であるとはいえないことを考慮すると、原告が株式に興味があり、自らの判断で投資機会を待っていたとは認めることができない。)。

3  以後、原告は、本件ワラント一〇単位を購入した平成三年一〇月までの間に、株式を一三銘柄(新日軽を含む。)、転換社債を一銘柄、ワラント一銘柄(石原産業)を購入している(乙二、三、証人南城)。このうち、フジクラ、三協アルミニウム及び昭和アルミニウムは、原告が銘柄を指定したものである(証人南城、原告)。

原告の一銘柄当たりの購入代金は、一〇〇万円前後から三三〇万円前後であり、手持ちの株式を売却して直ちにその資金を次の買付代金に充てていることも多い(乙二、三、原告)。山陽特殊製鋼と大東京火災海上については、原告から注文を受けて南城が売ったものであるが(証人南城)、これらの売却代金も、その売買の日付からすると、山陽特殊製鋼の分は大東京火災海上の株式の、大東京火災海上の分は三協アルミニウムの株式の、それぞれ購入代金に充てられたものと推認できる(乙二、三)。

原告は、平成三年三月一三日には、外国株式(ナショナルパワー)を購入し、その時に外国証券約諾書(乙五)が作成されている(乙五、証人南城)。

4  原告が初めて購入したワラントは、、石原産業のワラント一〇三万四七一二円であり、平成三年九月二〇日のことであった(乙二、三)。南城は、同日、原告に電話をして同ワラントを勧めたところ、原告もこれを購入することとし、同年一〇月一日、南城が原告方に、原告が同年九月二六日に買い付けた日本鉱業の株式の買付代金を取りに行ったとき、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙四、以下「確認書」という。)に原告の署名押印をもらい、これを持ち帰った(乙四の署名押印が原告自身によるものであることについては争いがない。その他の点については、乙四、一〇、一三、証人南城)。確認書は、「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書及び外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙一一、以下「取引説明書」という。)の末尾に綴じ込まれているものである(乙四、一一、証人南城)。

しかし、原告は、本件訴訟で被告から証拠が提出されるまで、原告が購入した株式以外のものは本件ワラントだけだと思っており、本件訴訟において初めて自分が本件ワラント以外にも石原産業のワラントを購入していることを知った(原告。なお、この部分は原告本人の供述によるものであるが、原告がその代理人との間で行ったやり取りの経緯が尋問中に現れており、採用に値するものである。)。

5  南城は、平成三年一〇月二二日、原告を訪問して本件ワラントを勧めた(証人南城)。原告は、南城から、株が少し上がれば数倍上がる、利益幅が非常に大きいから買っておいた方が得だと言われてこれを購入した(原告)。

平成三年一二月ころ、南城は、原告から、本件ワラントの売却について相談を受けたことがあるが、もう少し様子を見たらどうかとアドバイスした(証人南城)。

6  南城は、平成四年三月一八日、原告に電話し、本件ワラントが株価以上に値下がりしていること、権利行使期限まで二年半あるから、株価が少しでも上昇すればワラントもそれ以上に上昇する可能性があることを話し、ここで買い増しをすることによって、ワラント購入の単価を下げること(リターンリバーサル、いわゆる「ナンピン買い」)を提案した(証人南城)。原告は、これを買った方が大きい儲けになるのかと思い、買うこととした(原告)。

7  その後、原告は、たまたま知り合いの国際証券の者が原告の会社事務所に来た時、雑談の中でワラントを買ったという話をしたところ、同人から、期日や換算方法を問われ、預かり証を見せたところ、本件ワラントが紙切れに等しいものであると言われた(原告)。原告は、これを聞いて驚き、ワラントの価格は日本経済新聞に載っていると思っていたので、その株式欄を見たが、本件ワラントの値段が載っていなかったので、南城に電話し、本件ワラントの値段はどこに載っているのかと尋ねたところ、載っていないと言われ、多少口論になった(原告)。

8  南城は、平成六年五月に転勤し、清水光史(以下「清水」という。)が後任となった(証人南城、証人清水)。清水は、平成六年五月三一日、南城の転勤の際、引継ぎのため原告を訪ね、原告に対し、本件ワラントを売却する意向があるか聞いたところ、原告は、「今仮に売ってもいくらにもならないんだから、そのままにしておいてくれ」と答えた(証人清水)。清水は、本件ワラントの権利消滅前に、売却する意思がないか原告に電話で確認したが、原告は、そのままでよいと答えた(証人清水)。仮に本件ワラントを権利消滅前に売却したとしても一〇〇〇円くらいしか戻ってこない状況であった(証人清水)。

二  証券会社の従業員の取引勧誘行為が違法性を持つものとして損害賠償責任を生ずるためには、当該勧誘行為が私法秩序ないし社会的相当性を逸脱したと評価されることが必要であり、その判断に当たっては、投資者の職業、年齢、財産状態、投資目的、投資経験、当該商品の特質等に基づく取引の危険性の程度、取引の具体的状況等を総合的に考慮し、投資者が自由な意思に基づき、自己の責任で証券取引に参加することを建前としつつ、実際には、証券取引に関する情報・知識の量に圧倒的な差異が存する場合もあることに配慮しながら、その評価を行うことが必要である。

ワラントは、行使期限が経過することによって権利が消滅して無価値になること、株価に比べて値動きが激しいこと、外貨建ての場合には為替リスクも存すること、投資者側から価格形成がわかりにくいこと等から、取引の危険性は相当に高く、取引の勧誘に当たる者は、信義則上、投資者の能力・経験に応じ、当該投資者が取引への参入を決するにあたり重要な判断要素となる情報(特にワラントの危険性)に関する相応の説明をし、これを理解させることが必要であると解されるが、説明が必要とされる程度ないし説明義務の範囲は、前記のとおりの具体的事情に応じ様々な場合があると考えられる。

三  そこで、本件において、南城がワラントについてどのような説明をしたか検討することにする。

1  被告は、南城が平成三年九月中旬ころ、会社四季報、株価チャート、ワラント説明書を持参して原告を訪れ、その際、ワラントが新株引受権であり、一定の期間内に一定の価格で一定の株式の新株を買い付けることができる権利であって、その権利の売買であること、ワラントの価格は株価に連動して動くが、株が一割上がれば約三割上がり、一割下がれば三割下がるハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期限を過ぎると無価値になること、外貨建てワラントは為替の変動リスクがあることなど、ワラント取引説明書を原告に手渡した上、これに基づき約一時間かけて説明し、アラビア石油のドル建てワラントを紹介したが、原告は、リスクのある商品だと言って断った、と主張し、証人南城の供述もこれと一致している。

しかし、アラビア石油については売買がされなかったため、その記録が残っておらず、南城がこれを勧めたか否かははっきりしない。もっとも、原告は、南城からアラビア石油のワラントを勧められた記憶はないとしながらも、南城が来るときは何銘柄か持ってくるので、売買が成立しないと記憶に残らないと述べているから(原告)、南城がアラビア石油のワラントを原告に勧めた事実が全くなかったとも言いきれないが、仮に南城が右ワラントを勧めたとしても、原告は、それまで株式の売買しかしたことがなかったのであるから、もし、株式と異なるワラントの説明が十分にされていたとしたら、原告の記憶に残ってもよいはずである。また、原告の会社の事務所は一五、六坪で、一方に来客用のソファのセットがあるが、ついたても何もないというのであるから(原告)、従業員が働いているところで株の話を長くすることはできないという原告の供述も不合理なものではないと考えられる。よって、平成三年九月ころ、南城が一時間かけてワラントの特質を説明したという事実を認めることはできない。

2  原告は、平成三年九月二〇日、石原産業のワラントを購入しており、被告は、同日は電話で、また、同年一〇月一日には原告を訪ねてワラントの説明をしたと主張するが、原告は、本件訴訟において初めて自分の購入したものが石原産業のワラントであると認識したのであり、それまではこれがワラントであるという明確な意識がなかったことは前記のとおりである。したがって、石原産業ワラントを購入する際にも、ワラントに関し、株式との違いや特質について原告が納得するに足るだけの十分な説明があったということはできない。

もっとも、原告は、同年一〇月一日、確認書に署名押印しており、しかも、その確認書は、取引説明書の末尾に綴られており、取引説明書の内容を確認し、その責任と判断で取引を行う旨大きく記載されているのであるから、会社の代表取締役である原告が、右確認の事実もないままこれに署名押印したというのであれば、極めて軽率であったと言わざるを得ず、逆に、右事実から、同日、原告を訪ねた南城がワラントについて十分な説明をしたと推認できるのではないかが問題となろう。

しかし、石原産業ワラントは、同年九月二七日には南城の勧めで既に売却されているから(乙二、証人南城。なお、売却の日付は、乙三の日付と一致しないが、乙三は、取引口座の入金明細であるから、実際の約定日とずれているものと考えられる。)、同年一〇月一日における確認書への署名押印は、書類を整えるという意味合いが強く、また、このことは、原告が南城からこういうものが形式的に必要だからサインしてくれと言われて書いたと述べること(原告)とも整合する。加えて、この時点で南城と原告との取引上の付き合いが約一年間に及んでいることも考慮すれば、原告が、南城を信頼し、言われるままにサインしたと述べるのも、十分うなずけるところである。さらに、南城は、石原産業のワラントについては、同年九月二〇日、電話で三〇分をかけて説明した旨述べているが、二回線しかない会社の電話(原告)の一つを三〇分の間ふさいで社長個人の証券取引の話をするということも容易に考えられないというべきである。確認書の体裁からすると、原告が確認書に署名押印をした際、取引説明書を手にし、その後、これが原告の手元に渡っているということも十分考えられるが、取引説明書が原告の手元にあるということから直ちに南城がワラントについて十分な説明をし、原告がこれを理解したと推認することはできない。

そして、石原産業ワラントの購入価格が一〇三万円余りであって、それまでの株式の売買と金額の点で大きな差がないこと、ワラントを買い付けた顧客に買付の証明として渡す預り証(乙一二がその例である。)には、権利行使期限及びそれを過ぎるとワラントが無価値になることが記載されているが(乙一二、証人南城)、石原産業のワラントについては、買付後すぐに売却されたのでこの預り証を渡していないこと(証人南城)からして、その後、本件訴訟に至るまで、原告が石原産業ワラントを株式と誤解していたことが十分に窺えるというべきである(なお、石原産業のワラントについても取引報告書が送付されているが、原告は金額を確認する程度ですぐ捨ててしまったというのであるから(原告)、このことはせいぜい原告の過失を根拠付ける事情になるにすぎないというべきである。)。

3  原告は、本件ワラント一〇単位の購入の時には、ワラントという言葉を聞き、ワラントを買ったという認識がある(原告)。

しかし、ワラントの精算金額については、ワラント説明書に記載があるものの、必ずしも具体的ではなく(乙一一)、南城も、この点についてはワラント説明書に載っていると言うのみで、具体的に説明したと明確に証言していないこと、南城は、株が一割上がれば約三割上がるという説明はしたが、具体的に数字を出して説明をしておらず、ユアサ商事の株価がいくら以上になると利益が上がるのかについても、数字を示した説明はしていないこと(証人南城)、原告は南城から株が上がれば三倍上がるという話を聞いたが、下がれば損をすると言う説明はなかったこと(原告)からすると、南城が、ワラントのハイリターンの面を説明したことは窺われるものの、その説明も必ずしも具体的ではなく、また、株式に比べてハイリスクであるなど、ワラントの仕組みや特質を理解させるだけの説明をしたか否かは疑問である。

本件ワラントについては、乙第一二号証のような預り証が出されており、買付後すぐ被告の本社から取引明細である取引報告書が送付されている(証人南城)。また、ワラントの時価については、南城も、三日に一回くらい原告のところに連絡し(証人南城)、被告の本社からもワラントの時価の連絡がされている(乙七の1ないし10、証人南城、原告)。しかし、これらは本件ワラント一〇単位の買付後の事実であり、これらの事実から直ちに南城が十分な説明をしていたと推認することはできないし、ワラントの時価の連絡がされていたことから、原告が後に本件ワラント二〇単位の購入をする時はより慎重であるべきだったとは言えるとしても、それによって被告の説明義務等が軽減されるものでもない。

4  本件ワラント二〇単位の購入の最にも、前記認定のとおり、原告は、買い増ししたほうがもうかるという意識で購入している。しかし、この後、原告は、国際証券の者から、本件ワラントの価値について初めて聞かされ、驚いて南城に電話したというのであるから、この段階においても、原告が本件ワラントの特質等についてほとんど理解していなかったことが明らかである。

したがって、本件ワラント二〇単位の購入の際にも、南城からワラントの特質等が十分に説明されていたということはできない。

四  以上検討したところによれば、原告は、被告との間で約一年余りの間、株式の売買を継続してきたものの、株式に積極的な関心があるというほどではなく、しかも、本件ワラント購入までは、石原産業ワラントを除き、株式の売買しかしたことがなかった者であるから、被告ないしその従業員である南城は、原告との間でワラントの取引に入るにあたっては、これに対し、前記二に記載したようなワラントの特性、特にその危険性について、株式との比較をするなどして、十分に説明すべきであるところ、原告の最初のワラント取引である石原産業ワラントの購入については、その時までに原告がこれをワラントであると認識できるような説明をしておらず、その後、本件ワラント一〇単位の購入に際しては、ワラントのハイリターンの側面について説明したことが窺われるものの、説明としてはそちらのほうに力点が置かれていて、その危険性については、十分説明したと認めることができない。また、本件ワラント二〇単位の購入に際してもワラントの特質等について説明した事実を認定することができない。よって、南城の本件ワラントの勧誘には、原告に対する必要な情報の提供を欠いた説明義務の違反があったと判断するのが相当であり、南城にはこの点についての過失もあったと認められるから、被告は、使用者としての責任を負うというべきである。

五  本件ワラントは、いずれも権利行使期限を経過し、無価値となったものであるから、本件ワラント一〇単位については一〇五万三二〇〇円が、同二〇単位については五三万五二〇〇円をもって損害と評価するのが相当である。

しかし、原告は、ワラントの取引についてはほとんど経験がなかったものの、株式については取引経験を有していること、石原産業ワラントについては、取引後、取引報告書を受け取っており、確認書にも署名押印していること、本件ワラント一〇単位を購入した際には、権利行使期限の明示された預り証を受け取っており、また、ワラントの時価に関する報告もされていること、証券取引は、基本的に投資者が自由な意思に基づき、自己の責任で参加すべきものであり、本件においても、原告がワラントを購入していることを認識する機会があり、いつでも南城にこの点を確認することが可能であったことを考慮すると、原告にも相当の落ち度があり、これを過失相殺として損害額から減ずるのが妥当であるところ、その割合は、本件ワラント一〇単位については二割、同二〇単位については三割とするのが相当である。したがって、原告の損害は、本件ワラント一〇単位については八四万二五六〇円、同二〇単位については三七万四六四〇円となる。

また、原告が本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであるから、事案の内容、認容額等の事情を考慮し、原告が被告に対し賠償を求め得る弁護士費用としては、一二万円を相当と認める。

なお、本件における附帯請求の起算日は、損害発生時とすべきであるところ、本件ワラントについては権利行使期限である平成六年九月二日の経過によって損害が発生したものであるから、同月三日をもって起算日とすべきである。

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